記事①「とちぎ夢アグリ」での1日

宇都宮市の道の駅ろまんちっく村の前の通りから、少し細道に入ったところにあるのが、とちぎ夢アグリさんの畑だ。
畑に着き、車を降りると、メンバーの方がいつも優しい笑顔で迎えてくれる。

「こんにちは。今日も暑いですねぇ。大変だけど、よろしくお願いします。」

ごく自然な挨拶から、ここでの仕事は始まる。

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とちぎ夢アグリさんは、栃木県農政部のOBが中心として活動している農業法人だ。
今年で、活動は4年目を迎える。

主な作物は、じゃがいも、さといも、さつまいも、といった芋類 。
その他には、日光唐辛子、ズッキーニ、カボチャ、ニンジン等の露地野菜も栽培している。
収穫した野菜は、地元の「あぜみち」「ヨークベニマル」「えきの市場」へと出荷している。

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ここでの若者たちの仕事は、主に芋類の収穫だ。


この日は、さといもの収穫のお仕事。

最初に、メンバーの方から、収穫の手順についてレクチャーを受ける。


作業自体は、特別に難しい内容ではないように思われたが、やってみると結構大変な仕事だ。
割と力を使うから、体力が必要であることがわかる。
それに、機械では難しいということも、よくわかる。
手作業で、コツコツと、1つ1つ丁寧に。そういう仕事だ。


若者たちは、9月でもまだ暑い畑の真ん中で、黙々と作業を進める。
時折、メンバーの方が、様子を見にきて「どう?」なんて声をかけてくれる。
引率員も含め、数人での作業であるから、ぽつりぽつりと話しながら、でもしっかりと手を動かす。

「虫は平気な方ですか?」

「・・・苦手です。でも土いじりは嫌いじゃないので。」


だいぶ疲れてきたなと感じた頃に、昼休憩に入る。
各自持参してきたお弁当を食べる。一緒に食べることもあれば、それぞれ思い思いの場所で食べることもある。汗をかいた後のご飯は、きっといつもより美味しい。

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そうこうしていると、午後の作業が始まる。


畑の前に立つと、午前中よりだいぶ進んだことがよくわかる。
緑で覆われていた畑が、徐々に土色に染められていく。
自分の仕事の手応えが、目に見えて実感できることが、農業という仕事の醍醐味かもしれない。
でも、まだまだ、たくさんの畝が残っている。
午後の目標を立て、「よし、あと一息!」

時折、ふわっと風が畑を通り過ぎる。
「うわぁ、気持ちいいねぇ」
思わず顔を上げ、声が出る。まだ涼しいとは言えない風にすら、ありがたみを感じられる。それだけ頑張ったんだなぁ。風は心地いいんだなぁ。もう少し、がんばろう。


14:30、1日の仕事の終わりの時間が来た。
自分たちを労い合いながら、車に戻ると、メンバーの方が声をかけてくれた。

「ご苦労様でした。さぁ、こっち来て一服していきな。」

ビニールハウスの小屋の中に招かれ、冷たい飲み物や茶菓子をふるまっていただいた。申し訳ないなと思いつつも、皆んなでありがたくいただく。冷たい飲み物が喉を通ると、なんとも言えない充実感で満たされていく。1日の作業を終えられた安堵感か、誰かと一緒に汗を流すことの達成感か、それともメンバーの方の気持ちが嬉しかったからか。きっと全部だ。

たまに、収穫した野菜を「形が悪いから」と、持たせていただくこともあるのだが、それがちょっぴり楽しみであることは否定できない…。

こうして、とちぎ夢アグリさんでの1日の仕事は終わる。


 〈インタビュー:代表 吉澤さん〉

とちぎ夢アグリさんが、若者への仕事をくださるようになってから1年半程経ちますが、どのような経緯で若者の受け入れを始めたのでしょうか?

私たちの活動の根底には、「農業に対する愛着を、体験を通して感じてもらいたい」という思いがあります。

栃木県内でも休耕地や耕作放棄地が増えてきていますし、農業に興味を持つ若者が出てきて欲しいという願いは強くあります。自分たちでできる範囲での活動をしていますので、私たちの畑は「就業の受け皿」にはなれないけれど、「体験の受け皿」にはなれます。若者への仕事の話を若年者支援機構さんからいただいた時も、こうした思いから、お願いしてみようと思いました。

実際に若者たちの仕事を依頼し、どうでしたか?

私たちの活動の中で、一番手間がかかるところは、やはり収穫の部分ですので、収穫の季節に若者たちに手伝ってもらえることは、とても助かっています。

最初は口数が少ない人も、何回か来てくれているうちに、自然と話してくれるようになることもあります。そういう姿を見ると、仕事としてだけではなく、来てくれてよかったなと感じます。


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とちぎ夢アグリさんは、県内の子ども支援団体やNPO団体の農業体験の受け入れも行っているそうだ。県内の子ども食堂へ野菜を寄付する活動もしているという。

農業には、「生産」としての役割だけではなく、人や社会を支える力がある。社会と繋がるためのきっかけとしての可能性を、大いに秘めている。とちぎ夢アグリさんの畑には、これからもたくさんの子どもたちの元気な声が響いて欲しいと思う。そして、その畑を、時に若者の手で、支えていけたらと思う。